2009年2月21日土曜日

交錯

【 第 壱 回 】
[苛立ち] 作者:崋山宏光へメールする!

 尚三は澪がもう二度と澪自身の意思でこの家に戻らないことを悟った。無言のまま尚三は邸の二階へと上がっていった。澪と30年近く寝起きをともにした自分たちの部屋に入り床の間の先祖伝来の飾り鞘の日本刀を手にした。鞘の中央付近をわしづかみにしていきなり日本刀の柄の先端部を床の間の壁に掛けられている己の若き頃の写真の額の己自身めがけ両手に渾身の力を込めて力任せに打ち付けた。ガシャっと鈍い音で額のカラスに放射状のひび割れができた。ガラス片が床にガシャリと落ち飛び散った。さらに両隣に並んで掲げられていた尚三の柔道と剣道の段位認定状の飾り額をもたてつづけにぶち割った。大きく剣状に割れたガラス片がグサリと床の間の板に突き立った。尚三は目を怒りで大きく見開いたままその場に仁王立ちした。怒りで歪んだ唇からうめき声がもれる。ガラスが割れ落ち裏板がはずれ飾り額の金縁の枠が壁に斜めに掛って落ちそうなまま揺れながら留まっていた。尚三は怒りに目を見開き宙を睨んだまま今来た方向へ振り返った。振り返りざまに天井から宙空に吊り下がっているさほど明るくは無い裸電球を鞘のままの日本刀で上段から渾身の一撃で叩き割った。剣道4段の振りぬいた鞘のままの日本刀が鋭く唸りをあげて上から下へ弧を描く。尚三の怒りの一撃を受けた裸電球は衝撃で破裂しポーンと鳴る破裂音とともに薄いガラス片が粉々なって部屋の四方へ飛び散った。破裂音を残して砕けちった電球の明かりは失せて光源の絶たれた部屋は暗黒の闇となった。目前の視界が闇に遮られた部屋で行き場の失った尚三は深淵の闇がもたらした行き場の無い部屋が己の心の闇そのものであった。闇に染まってさえも尚三の怒りは留まるところを知らず尚三は暗闇の中で鞘のままの日本刀を振り回し続けていた。

つづく

このブログは現在書きかけの項目です。暇を見て随時書き足してゆきますのでまた訪れてください。ありがとうございました。

作者:芳賀宏光